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時計、リング、眼鏡・・・
自分にとって大切なものは、高い物から順番に去ってゆく。
っていうか、飲みん時に気合い入れて良いものをばっか付けて行くから、酔っ払って無くすんだろ?
時計の日付、
本日5月13日は、僕の誕生日でございます。
袖見れば分かるよね?
シャツ着てるよね?
そう、相変わらずお仕事です。
昨日から厄介な現場が始まってしまい、営業そっちのけで、現場張り付きです。
お客様が、893屋さんで困った事に複雑な現場。
僕は今、モビルスーツでも作ってるのか?
というくらい、参考資料を沢山机に並べて作った見積り。
「たけぇ〜よ!ボケェ〜!」
それが彼等のお答え。
スッタモンダして、元請さん受けちゃたもんだから、本日、休日返上!
僕らは法律に守られている筈。
昨日も朝からジャーゲ・ジョージ否、ジャージ上下の金時計に、
「お前か?見積りしたの!」
と下から見上げられ、その後、延々と武勇伝聞かされて、困っておりました。
危うく自分お尻の上の『ウッドペッカー』のモンモン見せてやろうかと思っちゃいましたよ。
そうだ!ロンドンでそれやろうとしたけど、温泉とか行けなくなっちゃうから止めたんだ!
アブね〜、ただのモ〜ホ〜かと思われるところだった!
まぁ、普通?のサラリーマン捕まえて、良く喋るお方だこと..
あ〜ぁ、なんか凄く雨降ってきちゃいましたよ。
中止だって分かってれば、こんな遠くまで来ないのに...。
微妙だなぁ〜
夜の女性数名からきた
『お誕生日、おめでとう!』
メールで、自分の誕生日を再認識しました。
エルビス・コステロの歌が聴こえる...。
・・・つづき
12月23日
Τは電車の中で昨日もらった手紙を読み返しながら、ユミちゃんとの待ち合わせの場所へと向かった。
天気は生憎のくもり空。
品川駅の近くのカフェが待ち合わせの場所だった。
無造作にダッフルコートのポケットに手紙をしまい、窓際の席に座った。
いつものように15分早く着き、いつものように待ち合わせ時間から15分待った。
「ごめ~ん!遅刻魔だね私・・・」
笑顔でユミちゃん登場。
Τも気持ちを切り替えて、親友との会話を楽しんだ。
「私ね、行きたいところがあるの!」
・・・・・
「Τ君、それともどこか行きたい所ある?」
Τもいろいろと考えてはきたが、昨日の手紙でモチベーションが落ちて、正直これといってしっくり来るところが無かった。
「浅草に行きたい!前に連れてってもらったでしょ?あのカフェにまたいきたいなぁ。」
カフェといっても恐らく爺さんの代からあるような純喫茶で、ただ常にオールディーズが流れているようなところだった。
「あそこ気に入ってくれたんだ?」
「また連れてってくれない?」
Τはうなずくと立ち上がって
「よし!行こう!」
とコートを手にとって店を出た。
上野から地下鉄に乗って浅草に着くと、先程よりも雲が重く、空が低く感じられた。
「とりあえず、ランチにしない?」
二人はこれまた大正時代からずっと営業しているような洋食屋へ入った。
この店は昭和初期の文豪もこよなく愛したという正真正銘の老舗で、メニューの書き方まで時代を感じさせるものだった。
お腹も満たされ二人は浅草寺を抜け、花屋敷の前に立った。
「入らない?」
「そだね!」
天候も影響してか、園内はガラガラの貸しきり状態だった。
有名なジェットコースターに乗るのにも、わざわざスタッフを呼びにいくような感じであった。
「これがΤ君の演出だとしたら、素敵なクリスマスプレゼントね!」
「そうだよ!今日のために貸しきったんだ。」
「じゃあ、あの家族連れは?」
「エキストラ!!!」
そんな会話もあり、楽しい時間は過ぎていった。
夕方になり、辺りも暗くなり、少し小雨がパラついてきた。
二人は目的のカフェに入った。
「どう?順調にいってる?」
「どっちが?」
「どっちともかな・・・?」
受験の事、シュンとの事。
「受験は恐らくK家(ユミちゃんの名字)の思惑通りだよ。多分来年は夕飯とかのお世話になってるよ。」
「で、もう一つの方は?・・・そういえば私、この間渋谷でΤ君の彼女見かけたんだ。リョウがさ、あのコ
凄くいろんな情報持ってるでしょ?『あのコがΤ君の彼女よ』って、、とってもきれいなコね?」
「一回はもうだめになったと思ったんだ。だけどお互い受験だし、今は暫く逢わない事にしてるんだ。」
Τは完全に手紙の影響を受けていた。
そして、いつかまた楽しかったときのようにシュンと向かい合えることも信じていた。
ユミちゃんはカフェオレボールの中をスプーンでかき混ぜながら、
「そうなんだぁ、私ね・・・」
何かを言おうとして突然黙り込んだ。
「どうかしたの?」
横のジュークボックスを見つめているユミちゃんの瞳は少し潤んでいた。
「私ね・・・Τ君の存在を2年前からあたりまえのように思ってたの。だからず~っと一緒にいる友達?ううん、家族みたく割切ってたのね・・・」
Τは黙ってユミちゃんを見つめていた。
「この間、ふと今までの出来事やあなたの優しい目を思い出して考えてたの・・・そしたらなんか掛替え無いものに思えてきたの。ズルイでしょ?今まで散々あなたの気持ちを裏切ってきたのに・・・」
ユミちゃんは泣き出してしまった。
それでも嗚咽しながら続けた。
「凄く彼女に対して焼もちを焼いている自分に気付いたの。あなたに彼女が出来たと聞いたときどうしようもない喪失感に居ても立っても居られなくなったの。」
そういうと、ユミちゃんは再び黙り込んでしまった。
BGMにはオーティス・レディング『(シティン・オン)ザ・ドック・オブ・ザ・ベイ』が流れていた。
Τも暫く黙って曲を聴いていたが、彼の耳には、聞きなれたこの楽曲も雑音にしか思えなくさせるほど考えを巡らせていた。
「・・・ありがとう。僕にとってこんなに嬉しいことはない。馬鹿げているかも知れないけど、僕は将来を想像するときいつも傍らにはユミちゃんがいたんだ。そしてそうなることをいつも強く求めていたんだ。けど・・・」
遮るようにユミちゃんは言った。
「好きなの。Τ君の事が本当に好きなの。本当はずっと好きだったの。あなたが作っている私への理想に私自身適わない事に気付いたとき、あなたの気持ちに応える自信がなくなってしまったの。私が一番Τ君との関係を壊したくなかったのかもしれない。」
知らず知らずにΤも頬を伝う何かを感じ取った。
「・・・けど、今はユミちゃんの気持ちに応える事が出来ない。一年前の今日僕は君への気持ちに句点を打ってしまったんだ。」
Τ君、君はなんて事を言っているんだ!
そこに男の意地は必要ないだろう?
今君の気持ちを一番理解している女性が、君の目の前で涙を見せながら告白をしているんだ!
君は愚か者だ!
若すぎるのにも程がある。
どうしようもない馬鹿だ!
結局店を出ると、いつものようにユミちゃんの最寄の駅、蒲田まで送っていった。
二人沈黙の車中。
別れ際、ユミちゃんは出来る限りの笑顔を作った。
そして、
「よう!親友!送ってくれてありがとな。」
と言い、手を伸ばしてきた。
Τも情けない笑顔を作り、その手を握った。
それから一ヵ月後、Τと僕は上の大学への優先試験を受けた。
(そう僕らの高校は上の大学への推薦枠が少ない為、とても簡単な優先試験で進学率を上げていたのだった)
Τは酷い風邪を引いていた。
そして結果は・・・・・
・・・・二人とも見事に不合格。
僕らよりも成績の悪かった奴も普通に受かっていた。
結果を見て僕は、
「Τよ、まだ僕らには本番が残されているんだ!もう一ヶ月頑張ろうぜ!」
なんて言ってはみたものの、この試験に落ちるくらいではもう何も期待は出来ないであろう。
確かにΤは当日風邪を引いていた。
熱も39度近くあったらしい。
しかもボーダーラインから1点足らないだけだったらしい。
残酷な先生の発表だった。
二人とも夜間部に行く権利は得られた。
Τは合格発表をみると、僕のそんな発言が耳に入る様子も無く、黙って記念館のほうへ歩いていった。
Nが駆け寄っていって必死にΤを捕まえた。
自殺をするとでも思ったのらしい。
ただΤは電話が掛けたかっただけだった。
「ユミちゃん、結局僕は優柔不断で何をやっても中途半端だから、きっとこれは当然の報いなんだよ。あの後だってユミちゃんの気持ちに対して心の中では飛び上がるほど嬉しかったのに、変な意地張って拒んでしまったんだ。楽しいはずの未来も、ささやかな君との幸せも一度ここでリセットしなくちゃいけないんだ。」
「Τ君、私の気持ちの根本は変わらないと思うよ。それが愛とか言われると正直戸惑うけど、根本の好意はず~っと変わらないよ。」
Τは力無く感謝を告げると電話を切った。
もちろん僕達はその後の受験に失敗した。
ことごとく志望校から見放された。
そして、シュンは見事現役でK大学に合格し、同じ大学に通うこととなったDと付き合い始めた。
エクはモデルになって、雑誌でよく見かけるようになった。
Τは何故か物怖じして連絡も取っていない。
3月末には予備校の入塾試験を受けていた。
夜間部に行く権利を捨てて、もう一度志望校を試してみることにした。
晴れて浪人生!
一浪して僕らは大学生になった。
結局Τは僕らの高校の上の大学を受けることなく、東京郊外の大学のフランス文学科に通った。
その後ユミちゃんとΤは1~2度逢ったが、Τからユミちゃんのもとを離れるように音信不通になった。
Τは大学院でもないのにいつまでもチンタラと大学に通っていた。
大学5年の12月のある日、Τものとに一通の絵葉書が届いた。
『親愛なるΤ様、
来春私は結婚します。
いつまでもあなたは記憶の友です。』
3行の文章。
そして、ジュークボックスの脇にクリスマスツリーのある絵葉書だった・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
回想録と称して、書き始めて3ヶ月以上たった。
僕は、自分をΤと置き換えて第三者的な見方で自分自身を見つめ直すことが出来た。
あまりにも稚く、あまりにも愚かだった自分を恥じる気持ちもあるが、それ自体が今の僕を形成している。
これを書いた僕は、あの頃の僕の傍観者であり、またよき理解者であった。
ユミちゃんはきっと今幸せに生きているだろう。
どこかで逢うことがあったなら、手を差し伸べてまた握手を交わそう。
きっと彼女もそうしてくれると信じたい。
思い出としてみれば、いつまでも未練がましくなるが、だからと言って今の僕の生き方に不満はない。
《FIN》
・・・つづき
成績も上がらない、シュンからは幼くも二人で育んでいたと思っていたものを全て否定され、Τは周囲から見ても痛々しいほど落ち込んでいた。
校内でも比較的上位の成績だったかれも、附属校である僕らの落とし所、上の大学に行かざるを得ない状況にまでなっていた。
所詮『滑り止め』としか考えていなかった・・・当時の僕らは。
そんな中のユミちゃんからの電話だった。
「今年はお誘いないの?もうそんな時期よ!」
ユミちゃんが新設の四年生大学への進学を既に決めていた事は、仲間内の話で聞いていた。
彼女は彼女なりに親友とのこの時期のイベントに重きを置いていたらしい。
決して自分の進路が決まり、楽になったからといってΤを誘うような配慮が足らない人間ではない。
「一日位息抜きしたって良いでしょ?それとも彼女に対して後ろめたい?」
ユミちゃんはリョウから聞いてΤの現状を知っていた。
Τもそのことについては語らなかった。
「息抜きどころか・・・」
「フヌケになっちゃった?」
「うまいね、ユミちゃんには敵わないよ。」
Τの凍てついた気持ちは、そんな会話と優しい時間が溶かしていった。
「私ね、来年の春引っ越すの。」
ユミちゃんの父親がそれまでの会社を退職し、事業をするということで、神奈川の郊外に家を買ったらしい。
その場所がなんと、僕らの大学の横浜校舎のすぐ近くなのだ。
なんという運命。なんという神の悪戯。
Τがこのまま志望校に落ち、上に行ったとしても、彼には仄かに淡く、甘い未来が待っていることになる。
「この時期のこのサプライズは、僕にとっては酷だよ。」
「志望校目指そうと高一から頑張ってきたんだもんね?」
そういわれるとΤの心は痛んだ。
ユミちゃんには散々夢を語った。
この大学に入って、こんな事学んで、将来はこんな事がしたい。
引くに引けない男の意地もある。
それを察してかどうかは分からないが、ユミちゃんはΤに言った。
「私ね、正直Τ君が上の大学に行けばいいなぁ、なんて思っちゃってるの。
酷いでしょ?
うちの親なんて
『早く割りきっちぇえば楽になるのにね?
そしたらたまにご飯招待してあげるのに。』
なぁんてもっと無責任なこというんだもん。」
「今のままじゃ思惑通りになるかな?」
Τは呟いた。
「嘘、嘘、今はそれどころじゃないもんね?・・・さてさて、23日はどうなのかな?」
「またその日ですか?」
「そうよ!文句ある?」
「今年は意地でも24日まで一緒にいてやる!」
「残念でした・・・私の門限は?」
「9時でしたよね?」
「よしよし!」
「じゃぁ、10時いつものところで。」
「OK!」
Τは自分の中のポッカリ開いてしまった穴に、暖かいものが注がれてくる感覚にしばらく浸っていた。
「少しやるか・・・」
そう呟き、世界史の問題集を解き始めた。
あっという間に時間は過ぎた。
これではいけないということと、本当の意味での妥協は(たとえそれをΤが望んだ結果だとしても)全てやり切った後に快く受け入れることが出来ると感じ始めていた。
そう導いてくれたのがユミちゃんだった。
22日の午後、一通の手紙がΤのもとに届いた。
『Dear,先生
この間は酷いことを言ってごめんなさい。
本当に酷いよね?ボク。。。
自分自身への嫌悪感を先生にぶつけてしまって・・・
ボクね、推薦に落ちたという劣等感も、異性に対する気持ちも、ここ最近自分自身に湧き上がる感情全てが初めてのことなの。
多分、この時期が過ぎて大学生になった頃、もう一度先生と向かい合えるときが来ると思う。
それまでしばらく、連絡も取り合うのやめようね。
先生、ううん、Τ君のことは大好きです。
ただ、もうしばらく待っててね。。。
返事はいりません。
D君にここのところいろいろ相談に乗ってもらって分かったの。
傷つけてごめんなさい。
残り僅か、お互い頑張ろう!
…シュン』
Dというのは、高2の頃から同じ塾に通う男で、成績は良いのだが何しろつまらない男だった。
少なくとも僕らグループはそう思っていた。
何かにつけてシュンに言い寄ってきていた男だった。
なんでそんな奴に相談を?
それになんだこの一方的な手紙は?
12年経った今思うこと、Τにきたこの手紙はシュンの自分自身に対する都合の良い言い訳、決してΤの気持ちは汲んでいない。
ただ、その時のΤは素直にシュンとの再会を期待してしまった。
いよいよ明日は12月23日。
ユミちゃんとの約束の日。
・・・つづく
・・・つづき。
高3になり僕らは受験を意識するようになってきた。
附属校でありながらもともと外部受験組の僕とTは高1の頃から通っていた塾にも気合が入ってきた。
ただ単に友達作り(特に女子)としか思っていなかった2年間はただ単に『親の脛かじりだけど親喜ぶ』みたいな都合の良いものだった。
しかし、偏差値や希望大学への可能性を意識し始めるとそうも言ってはいられない。
ただ、それも仲の良い女の子と同じ大学に行けたらいいな~的な不純なものでもあった。
Tはユミちゃんとの関係を割切って以来、急に彼女が出来た。
そんな奴だ。
真面目ぶったって結局の目的はこれかと謂わんばかりに・・・・
Tは僕らと同じような環境にいたR大学の付属校の女子と高1の頃から仲が良かった。
僕らグループの団体行動とは別に、個人プレーをしていたのだ。
塾で会う健全な付き合い方が良かったという点、同じベクトル上にあるという共通点、そしてTの性格が彼女たちとの関係をここに来てより親密にした。
しかも彼はそれまで仲が良かったコ達を踏み台にして(表現は悪いけど)高3から入塾した、通称「シュン」を狙っていた。
節子という古典的な名前をもつ彼女は、髪も短く、服装もボーイッシュで、自分を「ボク」とか言っちゃうちょっと変わったコだった。
幼稚園からスライド式の彼女たちの中には、全く親や兄弟以外の男性との接点を持たなかったシュンのようなコは珍しくなかった。
そこがTを揺さぶる大きな要因だったのだが、シュンも満更ではなかった。
遥かにシュンのほうが偏差値的にも上をいっていたのだが、「先生、先生!」とTのこと呼んでいた。
無邪気なシュンに対しTは塾の帰り、いろいろなことを話した。
彼は本好きで、暇があると神保町の古本屋に通っていた。
渋沢瀧彦の翻訳書、訳のわからない天文学書、神話等付け焼刃の知識を余すことなく彼女に語った。
当時の僕らはプチインテリジェンスな会話ができることをひとつのステータスと思っていた。
もちろん会話の中には、エクやユミちゃんの波乱万丈伝も含まれていた。
そんな話にシュンは「ふん、ふん、」感心し、いつしかTを先生と呼ぶようになったのだ。
夏期講習の前に事件は起こった。
Tはジャンケンに負け、僕らグループの夏期講習整理券予約夜中並ぶ担当になってしまった。
しかし彼は、彼女たちグループの整理券も並んでとってあげることを約束していたのだ。
多分彼はジャンケンに勝っても深夜から並ぶ道を選んだであろう。
深夜自転車で新宿に向かい、見事に全員分の整理券を取ってきたのだった。
朝、人任せの僕らが塾に着くと自慢げに彼は整理券を手渡した。
しかも一ケタ台の整理券。
ほぼ全員が目的の講習を受けることが出来たのだが、一人だけ講習の受付に現れない女の子がいた。
ヒロ子ちゃんという高校1年の頃からTが仲良くしていた女の子だった。
「ヒロ子、風邪引いて今日これないらしいの。とりあえず空いた講習受けるからって諦めてた。」
ヒロ子と仲の良かったシュンが言った。
Tは何を思ったのか、全く人気のない講習の受付を済まし、
「これヒロ子に譲るよ。」
とお人よしにも程がある訳の分からないことを口走り、そのまま自転車で下北沢のヒロ子の家までそれを届けに行くと言ってその場を去ってしまった。
面白くないのはシュン。
ヒロ子は親友ではあるけれど、良かれと思った彼の行動は彼女に生まれてはじめてのジェラシーを覚えさせてしまったのだ。
しかもヒロ子がTを好きなことはT以外周知のことであった。
シュンの相談相手になり、Tからはシュンとの進捗報告を聞かされ、悩んでいた彼女を僕は知っていた。
その後、シュンとTの付き合いは辛うじて続いていたが、シュンは僕らと違い学校での成績も良かった為、一足早く推薦試験の準備もあり、なんとなく2人の関係がギクシャクしているのを察することが出来た。
12月、J大学の推薦入学合格発表の日。
朝からそわそわしていたT。
居ても立ってもいられなくなり、彼は上北沢のシュンの家に向かった。
何度電話をしても、彼女は出ない。
自分専用線を引いていたので、親に気兼ねなく何度も掛けつづけた。
夜11時過ぎまで家の近くの公衆電話からかけ続けていたのだが、結局彼女は受話器を取ることが無かった。
翌日、Tの家にシュンから電話があった。
「落ちてたの、何もかも嫌になった。あなたの話し方にも嫌悪感を感じるようになっちゃった。このままでいると全部あなたのせいにしそうだからもう構わないで!」
後からヒロ子に聞いた話だが、シュンは恋愛なんかに呆けていた自分に対し相当自己嫌悪に陥っていたらしい。
ヒロ子は優しくTを慰めようともしたのだが、彼は情けない笑顔を浮かべるだけだったらしい。
そんな12月のある日、Tの元に1本の電話が入った。
ユミちゃんだった。
「今年はお誘いないの?」
三年目のそんな時期だった。
・・・つづく
・・・つづき。
校門での鉢合わせ。
携帯のない時代はこれだから困る。
Tの塾友達はユミちゃんの表情とその場の空気を察し、
「じゃあねT君また明日!」
などど言ってそそくさと帰ってしまった。(塾でって最後につけろ!)
「やだT君、彼女いるんじゃない!」
と余計なことを言うリョウちゃん。
(また明日)と(彼女)という言葉が、ユミちゃんの耳にはどう入っていったか?
『別にユミちゃんと付き合っている訳でもないしいいじゃん。』
って僕は心の中でTに訴えかけたのだけど、超能力者でもないTはただただ動揺を隠せずにいた。
ただユミちゃんは心の広いコだった。
「こら~ダメだぞ!」
なんて右手で作ったピースを口に当てながら言った。
Tも平静を取り戻し、「案内するから」なんて言って僕らは校舎のほうへ向かった。
下駄箱で靴を履き替え、4人仲良く教室へ向かおうとしたら、階段のところに見覚えのある女の子が一人立っていた。
神様がいるとすればこれはなんという悪戯。
(ミッション系の高校に通う僕らがそんなことを思うのは不謹慎だけど)
エクちゃんだった。
しかも一人で来ているらしい。
窮地に立たされたT君のとった選択は、何故かエクちゃん。
『あれだけ気まぐれに付き合わされて、どうしてそうするかな?』
僕は気を利かせてエクちゃんの案内役になるつもりだった。
だけどTは違った。
ユミちゃんにはリョウちゃんもいるし僕をはじめこの学校には仲のいいやつがたくさんいる。
そんな考えが彼本来のプライオリティを滅茶苦茶にした。
僕はそんな不器用な優しさを持ったTが誇らしく、大好きだった。
変な意味ではなく、女の子だったらどんな格好いいやつよりもTを選んだだろう。
ユミちゃんは別段表情を変えるわけではなく、僕らとそのときを楽しんだ。
一応、
「彼女はTの友達の妹なんだ。たまに勉強教えたりしてるからTも仕方なく誘ったんじゃない。」
なんて方便としての嘘をついた。
「可愛い子じゃない!T最近モテモテじゃない?」
また余計なことを言うリョウちゃん。
『おまえもう帰れ!』
と僕は心の中で叫んだが、リョウちゃんも超能力者じゃないから、
「ねえ?ユミ。」
なんてユミちゃんに同意を求めたりしていた。
「でも、T君は優しいのね。あのコがうらやましい。」
意味深ではあるが、やはり心の広いユミちゃん。
多分ユミちゃんが絶命するとき、天使が降りて来てラッパを吹きながら魂を天国まで案内するのだろうな・・・と僕は心からそう思った。
その晩、Tはユミちゃんにフォローの電話を入れた。
ユミちゃんに代わる前、彼女のお母さんに
「あらT君モテるのね。ユミがヤキモチ焼いてたわよ。」
なんていうもんだから、Tは代わったユミちゃんに平謝り。
でも心の広いユミちゃんは、
「埋め合わせ楽しみにしてるからね。」
なんて言うだけで後は普段のように世間話。
親も認める関係。
ユミちゃんの言動。
Tとユミちゃんの関係は明らかに良い方向へと向かっていたと思った。
恐らくその時はユミちゃんでさえそう思っていたに違いない。
Tはその後こう言っていた。
「今の関係はどこか儚くて落ち着かないのは正直なところ。だけど僕がもう一歩前に出てしまったら、全てを失ってしまうようで怖いんだ。」
あれ以来タバコをやめたTはそう言ってフーセンガムをふくらませた。
でも、Tの忍耐が痺れを切らし、一歩前に出てしまうのにそんな時間がかからなかった。
クリスマスが近づき、今年もパートナーに選んだのはユミちゃんだった。
ユミちゃんの答えは・・・
やはりその年も23日だった。
ただ、彼女の言葉を信じれば、別に好きな人がいたわけでもない。
ユミちゃん自身Tと考えはまったく同じで今の関係が一番望ましいと思っていたらしい。
そんなに24日(イヴ)は重要なのか?
僕は二人に問い掛けたくなった。
モドカシサとTへの同情がユミちゃんに対して憤りを覚えさせた。
Tは去年と違い、すっきりとしていた。
酒に溺れるような事は無かった。
どこか寂しい笑顔で、
「おまえ以外に親友が出来たよ。」
と言うだけだった。
・・・つづく